valknee | 嫌いなものに立ち向かうために、好きなもので強くなる

大好きなサブカルチャーからインスピレーションを得て、日本のヒップホップの現状を変えていくラッパーです。
valkneeのポートレート。写真はすべてAoi Itoh(@aoitoh)が撮影したものです。

valknee (@valknee) は、甘さは弱さを意味しないということを、彼女の音楽で証明している。このアーティストは「ラッパー」という言葉を自分のものにし、ヒップホップというジャンルの現段階では、他のものになれるし、なるべきだという主張をしているようなものだ。 

日本のヒップホップシーンでは、最も人気のあるアーティストやラップスタイル自体、男性優位があまりにも明白です。valkneeは、ギャル、原宿ティーンカルチャー、90年代の日本のポップやユーロビート、そしてアイドルの音楽など、日本を代表するサブカルチャーの美学とサウンドの影響を自分の音楽に取り入れることでこれを逆転させました。

さらにvalkneeは、女性やノンバイナリー・ジェンダーのアーティストが、お互いをサポートし合いながら自分たちを可視化するために結成した集団、Zoomgalsの一員でもある。valkneeのEP『vs.』のリリースを機に、この異なるヒップホップのビジョンについて詳しく話を聞いてみた。

chorareii valknee vs aoi itoh promo

Chorareii: まず、自己紹介をお願いします !

valknee (@valknee)です。東京に住んでいます。

小・中学生の頃は韓国のソウル市にある日本人学校に通っていました。

大学では美術大学に行きました。その頃から音楽を始めて、今はオフィスで働きながら音楽を作っています。レーベルや事務所には所属したことがなく、インディペンデントです。

アーティストの経歴には、よく「ラッパー」「私はラップをする」と書かれていますね。私たちの世代における「ラップ」や「ラッパー」の概念とは、どのようなものだと思いますか?前の世代と比べて変わってきたと思いますか?

以前の世代は、生活そのものをラップしたり、私から見ると「ラッパーらしい文化」についてリリックを書く人が多かったように思います。

最近はそこに固定されていないスタイルのラッパーが増えたように見えます。
ここ10年くらい…私がラップを好きになってから活動している期間にかなり変わりました。

chorareii valknee bet me cover aoi itoh
valkneeのシングル「BET ME!」がPitchfork Selectsのプレイリストに掲載されました。ジャケットはAoi Itohが担当。

Pitchfork Selectsのプレイリストであなたの曲「BET ME!」を見たとき、とても嬉しかったです。おめでとうございます。その前に「Kawaii bad bitches only!」というプレイリストに出会って、その中にあなたの曲が何曲か入っていたんです。確かに、あなたの音楽は甘さと力強さを兼ね備えていると思います。それはあなたの個性なのでしょうか?

性格は強いと思います。人と一緒に何かするとき、よく人とぶつかります。

そういう性格なので、逆にかわいいものに憧れるのかもしれません。

かわいいモチーフ・幼い子が好みそうなもの・動物・そして「かわいいものを身に付けているけれど実際はタフな心を持った人」が大好きです。

反対の気持ちというのは面白いですね、実はあなたの最後のEPは「vs.」というタイトルなんです。それについて教えてください。

新作EP 「vs.」は、生きていく中で様々なものと「vs.(対戦)」する内容になっています。対戦する相手は社会や、システム、自分自身など。

ビートが過去の作品とはがらっと変わって、ハードなダンスミュージックになっているので、仕事前や、運動するとき、遊びに行くときなどにぴったりだと思います。

今回は4人のプロデューサーを招きました。以前から共作しているhirihiri・RYOKO2000のピアノ男に加え、STARKIDSのメンバーとしてユースから支持されているBENXNI、東京都内でDJ&サウンドチームのLADY’S ONLYとして活動していたDC Mizeyです。

ビジュアルはアートディレクターのAOI ITOHと、私の祖母の家の庭で撮影しました。

valkneeのEP「vs.」のジャケットをAoi Itohがデザインしました。

90年代、日本のティーンカルチャーと原宿の美学は世界的に注目されるようになりました。あなたの音楽と美学には、その文化への言及が多く見られます。数十年経った今でも、この文化にインスパイアされるのはなぜだと思いますか?

その頃は小学生で、漫画や雑誌からそういったファッションにすごく憧れていました。けれど自分の服装に取り入れるのは難しく、満足していなかった。スーパーマーケットで買ってもらった服を着ていましたから。

今は働いていて、自由に使えるお金も少しあるし、好きに取り入れることができています。同じように、ハイティーンのときに流行ったもの(原宿ファッションの発展したもの。森ガール。少しゴスの入った小悪魔のようなもの。)も取り入れています。

子供の頃から持っているピュアな気持ちを大切にしたいので、昔好きだったものに触れるのが好きです。そして、一度好きになったものは、なかなか飽きない性格です。90年代に出たゲームの、NINTENDO64  Star Fox 64 という作品を今でもやっています。

chorareii valknee vs aoi itoh promo

valkneeになるにあたって、ギャルというサブカルチャーに影響を受けたそうですね。サブカルチャーはあなたに何を与えたんでしょうか

世の中のこととか、自分が何をしたいのか、何が得意か、どんな性格か、考えられるようになったのが最近なんです。

27歳くらいまで、頭がぼんやりしてました。だけど、やりたいことが見つからない間も、とにかく自分に自信があったんです。サブカルチャーが色々な価値観を示してくれたので、強く、誇り高く、自分を保っていられたのかもしれません。

今は頭が動くし、色々なことを理解できるようになったので、やりたいことも見えてきました。自信や自己愛はずっと変わらないので、それは根本にあります。

ヒップホップアイドルグループ lyrical school のリリシストとしてコラボしていたり、日韓両国のアイドルグループがお好きなようですね。私はアイドルの世界をほとんど知らないのですが、おすすめのアイドルを教えてください。

韓国のボーイズグループ・Stray kidsは自分たちで曲を作っていて、とても才能豊かです。ラップも上手く、音楽性もエッジが立っていて、面白いグループだと思います。

MAMAMOOは年齢が私に近いガールズグループで、スキルがあってメッセージも強いです。MAMAMOOと近い理由でHYUNAも好きですが、もっと挑発的で目が離せない存在です。

長く活動している女性にエンパワメントされます。

エンパワーメントといえば、あなたがメンバーであるZoomgalsのライブを初めて見たとき、そう感じました。たくさんのパワフルな女性ラッパーやノンバイナリー・ラッパーがステージに立つのを見るのは、とても素晴らしいことでした。どうして一緒にやろうと思ったのですか? 

コロナウイルスが蔓延し出した頃で、家にいなきゃいけなかったし、不安でした。みんなが面白がれるような、明るい企画をしたいと思って「zoom」という楽曲をオンラインで作りました。

それ以前は、誰かとfeat. するときに、思想やバイブスがぴったり合わないと共作してはいけないと思っていたのですが、コロナ禍をきっかけに、一度、あまり慎重にならずにコラボレーションしてみようと思いました。

正直、日本のヒップホップシーンにおいて、女性のラッパーの多くはそれほど人気を獲得してきていません。分母が少ないこともありますが。

プラットフォームのオフィシャル・プレイリストを眺めていると顕著に感じます。プレイリストに入ったとしても「従来のヒップホップらしさ」を内面化していなければ、翌週にはプレイリストから消えています。男性的な強さを打ち出したものだと、比較的位置が上の方に、長く残りますね。リスナーのニーズに忠実に作っているからだと思います。

同じように、内省的で優しくメロディックな男性アーティストの曲も、一部のアーティスト以外は残りません。男性らしさがないという判断なんでしょうか。

そういうこともあって「ヒップホップらしさ」を選ばずに、よりPOPSに近い方向に進む女性ラッパーは多いです。そういう状況を考えたときに、考え方が違っても、大きく連帯するとどうなるか。試してみたくなりました。

結果、今までに経験したことのないような大きな反応があり、作品としても面白いものを作ることができたので、みんなで相談して、グループとしていくつかの楽曲を制作しました。

今は各々の活動を頑張っていますが、今でもZoomgalsが入り口となって沢山のリスナーが訪れてくれます。

音楽活動やZoomgalsでの経験から、女性アーティストが増えることで、どのような良い変化があると思いますか?

お互いを鼓舞したり、情報を交換したり、具体的に連帯すれば、もっと長い期間じっくりと活動を継続する人が増えると思います。

やめてしまう人も沢山見たので。それは個人のバイタリティの問題だけではなく、男性が多い環境・男性がジャッジする環境も一つの原因だと思っています。

日本における一般的な企業の仕組みと同じです。強さが求められ、プレイリストに入らず、イベントにブッキングされず、コメント欄ではセクハラを受け、そんな中で長く楽しく活動するのは難しいです。

時間をかけてでも少しずつ、フラットになっていってほしいので、そのために行動したいです。

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(((ง’ω’)و三 ง’ω’)ڡ≡ ☆⌒ミ((x_x)

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